—忘れられない物語
「神は存在する」
ある男がいつものように髪と髭の手入れをしてもらいに散髪屋へ行った。男は散髪屋のおやじと楽しい会話を始めた。二人はさまざまなことをああでもない、こうでもない、と話し合った。不意に会話が神のことに触れた。散髪屋のおやじは言った。 「だんなさん、私は神なんてもんは信じてないんです」
「ええ、なぜだい?」
「へえ、簡単なことです。表へ出れば神がいないってことがわかりますよ。だってもし神が本当に存在するのだったら、どうしてこんなにたくさん病気の人がいるんですか? 捨て子だっていますよ。ほらね、もし愛の神がいるなら、苦しみも痛みもないはずです」
男は口論したくなかったので、返事はせず黙っていた。髪と髭の手入れが終わり、男が代金を支払って散髪屋を出るまで沈黙は続いた。男が店を出るとすぐに、むさくるしいひげ面でぼさぼさ髪をした人が通りにいるのを見た。それを見てあることを思いついた男は散髪屋に戻り、おやじに言った。「散髪屋のおやじなんて者は、どこにも存在しない!」
「ええ、散髪屋のおやじはいないですって? ほら、私は正真正銘の散髪屋のおやじのひとりですよ!」とおやじは言った。
「いいや、いない!」と男は主張した。 「もし散髪屋のおやじがこの世にいるのなら、通りにいたような散髪や髭剃りが必要な人間は、ひとりもいないはずだろう!」
「なるほど。でもねえ、散髪屋のおやじは絶対にいますよ。そりゃあ、中には散髪屋に行かない人だっているんです」とおやじは言った。
「そう、そこなんだよ」と男は言った。
無論、神は存在する。しかし、神を求める人や、神のもとへ行く人はほとんどいない。だからこの世には、
こんなにも多くの痛みや苦しみが存在するのだ。
…生徒のための英語より
発信元
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